「発想の仕方を変える」
―シアトルで学んだイノベーションの可能性

間瀬海太(Umita Mase)

参加プログラム:TOMODACHI-Microsoft iLEAP Social Innovation and Leadership, 2016 Summer
慶応義塾大学3年生(参加当時)

参加のきっかけ – 将来は NPO やソーシャルのジャンルで働きたい

 このプログラムを知ったのは、大学の先輩からイベントに誘ってもらったのがきっかけです。2015 年 4 月に iLEAP 代表の Britt Yamamoto さんが日本にいらっしゃって、マイクロソフトの品川オフィスで日本の大学生に向けて話すというイベントがありました。その時は「知り合いが誘ってくれたから、行ってみようかな」ぐらいの興味でしたが、その次の年にこのプログラムが参加者を募集しているのを知って応募したのが始まりです。
 
 このプログラムに参加した 2016 年当時は、自分が将来、どのような立ち位置・役割でやっていきたいのか、悩んでいた時期でした。漠然と「NPO やソーシャルのジャンルで活動していきたい」という想いはありましたが、就職をした方がいいのか、それとも起業なのか。もし就職するなら大企業なのかベンチャーなのか…色々と迷っていて、自分として「こうしたい」と確信をもって選べる選択肢が見つかっていなかったんです。
 
 そんな中で、このプログラムが参加者を募集していることを知り、プログラムに応募することに決めました。
    

Seattle の Non-profit で受けたインパクト   

 参加前から期待していたのは、シアトルのNPOの現場を訪問することと、Microsoftへの訪問です。自分は「NPOの現場で働きたいのか」、もしくは「企業側でNPOを支援する立場で働きたいのか」。そんな疑問に対して、両方の現場をプログラム中に一度に見ることが出来るのはとても貴重な機会だと思っていたからです。 
  
 実際にプログラム期間中に行った「Fare Start(http://www.farestart.org/)」というNon-profitはとても印象的でした。ここは、ホームレスや貧困層に対して就業サポートを行っている団体なのですが、料理や接客スキルなど就業スキルをトレーニングするだけではなく、この団体が運営するレストランやカフェがあるんです。トレーニングを受けた人は、身につけたスキルをこのレストランなどで生かし、実際に働く経験を得ることで社会復帰へのステップを踏んでいきます。 
  
 この団体がすごいと思った理由の一つは、「シアトルの既存シェフコミュニティがこの仕組みを支えている」という点です。レストランでは、プロの料理人が料理をしている訳ではないのに、他のお店と同様のクオリティで料理を提供できている。これは、プロの料理人がサポートしているからですが、このサポートしている料理人の数が1人や2人じゃないんです。この団体の理念に共感したシアトルのシェフコミュニティ全体がバックアップすることで、この団体の仕組みが維持できています。 
  
 この取り組みを見て、「新しい取り組みをスタートする、または新たなコミュニティを創る際には、“既存のコミュニティに応援してもらえるビジョンが大切”」ということに気づきました。それによって、新しいコミュニティ自体の価値を高めていくことができますし、既存コミュニティのバックアップがつくことでシアトルに本社があるマイクロソフトやアマゾンなどの大企業からの支援を受けることが可能になります。 
  
 この考え方を自分の帰国後のアクションにも生かせば、自分がプロジェクトを行う時も周りを上手く巻き込み、支援の輪を広げることができるのではないだろうか。そんな風に感じた訪問でした。 
  
 こうした気づきも含めて、NPOの訪問からは「発想の仕方を変える」ことを学びましたし、それが自分にとって、とても大きなインパクトだったと思います。 
  
 また、マイクロソフトへの訪問では企業のフィランソロピーの新しい仕組みについて知る機会になりました。マイクロソフトでは、マイクロソフト社員がNPOでボランティアをすると、マイクロソフトからそのNPOに1時間あたり$25の寄付がされます。企業がNPOにお金の寄付をするだけではなく、社員のスキルも寄付される。こうした仕組みのように「企業が積極的にNon-profitの分野に協力をしようとし、またそれが実現する仕組みが作られ、活用されている」というのがシアトルのソーシャル界隈が活気づいている理由の一つである、と肌で感じることができました。実際に、一回NPOに関わり始めると短期的な関わりではなく、長期的な関係性になっていくので、とても面白い仕組みだと感じたことを覚えています。 
  
 シアトルでの滞在では、今まで知らなかった新しい仕組みを知ることが出来、毎日新鮮な驚きの連続でした。  

プログラム終了後 – 人口1万人の町に移住し、地域の教育イノベーションに挑戦

 シアトルでのプログラムを9月に終え、その2か月後に鹿児島県長島町(ながしまちょう)という所に移住しました。大学を休学し、総務省が主催する「地域おこし協力隊(注1)」として赴任しないか、と知り合いから紹介してもらったのが始まりです。 
  
 シアトル訪問前に、全国の高校生・大学生と地域を結びつけるプログラムを主催していました。そのプログラムは、全国の高校生・大学生が、ある地域を舞台にドキュメンタリーを制作するというメディアをテーマにしたプログラムだったのですが、その舞台が長島町だったんです。プログラム実施のために事前に何度か訪問し、またプログラム中に滞在することを通して現地の方との繋がりや、長島町で活動している他の方との繋がりが生まれました。 
  
 こうした一連の活動を通して「教育に関することがやりたい」と感じており、また丁度、教育事業を立ち上げる地域おこし協力隊を長島町が募集していた、というタイミングも重なって長島町に赴任することを決めました。それがシアトルでのプログラムに参加する前のことです。 
  
注1)地域おこし協力隊:総務省の地域振興制度の一つ。都会に在住する社会人・学生が2~3年の任期で地方に移住し、地域振興活動を行う。 

高校が無い町 長島町で「地域留学」プログラムを立ち上げる 


 長島町は鹿児島県の離島の一つで人口1万人の町です。この長島町には高校がありません。そのため、中学校を卒業すると約半数の高校生は自宅から近隣の市町村の高校に通い、もう半数の高校生は鹿児島県や他県の高校に進学するために町を出て行ってしまうんです。 
  
 そのような状況の中、株式会社ドワンゴとカドカワ株式会社、提携自治体がネット教育を活用し教育拠点を創る「Nセンター」プロジェクトを開始し、全国数か所しかないその提携地域の一つとして長島町にNセンターが設置されることになりました。このNセンタープロジェクトは、高校がない地域の高校生に対してインターネットを活用して良質な教育を提供し、都市部と地方部の教育格差解消を目指す、これまでにない取り組みです。 
  
 長島町には、このNセンターの運営とNセンターが実施するプログラムの運営のために数名、地域おこし協力隊が着任しています。そこで僕は「島TECH」という地域留学の事業を実施しています。 
  
 これは、都市部の大学生が長島町の事業者の家庭に1週間ホームステイをしながら、その事業者の課題解決に取り組む、というプログラムです。都会で生まれ育った学生は、地方の実際の生活を経験しながらこれまでに無い視点を手に入れ、またこれまでスポットが当てられてこなかった一次産業に対する理解を深めるきっかけとなります。自分が普段スーパーで手に入れる魚にも、スーパーに並ぶまで多くの人が関わっていて、一つ一つにストーリーがある。そんなことを間近で体感し、社会を立体的に見ることができるようになる、そんな機会を提供しています。 
  
 また、地元の方に対しても、都会の大学生が地方の魅力に新鮮に驚くのを見て、「地元を出たい」という意識が変わるきっかけになったり、若者人口減少にストップをかけるようになっていったらいいなと思っています。また、地域おこし協力隊の任期は3年間で終わってしまうため、今の仕事をどのように事業化するか、人を雇用したいとなったときにどうマネタイズするか等、継続的に運営できるような仕組みを作ることが今の自分の目標の一つです。 
  
 また、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の大学院 政策・メディア研究科「社会イノベータコース」がスタートする「地域おこし研究員」という制度があるのですが、長島町はこの新制度の対象地域になっています。僕は大学院生ではありませんが、実際に慶応義塾大学の学生が地域おこし協力隊として長島町に着任していることも下地となり、こうした新しい制度の対象地域となることが出来ました。 

プログラムで得たものと、これから 

 今、自分が挑戦している地域留学には、このプログラムで受けたインスピレーションを活用していることが多くあります。例えば、この地域留学では、中学生・高校生に自分と向き合う時間を創ってあげたいと考えています。自分自身の「やりたい」という気持ちより、「今、こうすべき」という常識に押され、自分の本当の心の声を抑えてしまうことがあると思うんです。そんな時に一回、今自分がいる場所と距離をおいて、行ったことが無い地域でこれまでとは違う仲間と過ごすことで、「そもそも自分は何を大切にしているのか」や「どういう人生にしたいのか」を見つめなおすきっかけが出来ると思います。また、こうしたことを考えられる一生涯の仲間を創る機会にもなっていったらいいなと思いますし、地域留学でそれを創っていきたいと思っています。長島町とシアトル、どちらも自分にとっては未開の地でした。それを連続的に経験できたことは、自分にとってとても大きな経験です。そんな機会を創っていきたいと思っています。 

2017年7月27日掲載

—————————————————————————————————————————————————————————————————————————————

***プログラム後の参加者の挑戦をお届けする卒業生インタビューシリーズ。全6回に渡ってご紹介します。***

インタビュー・書き手:津田 光佳、登坂 直弥、本郷 真美
監修:川口枝里子

第1弾、 千葉 恵介 (Keisuke Chiba)さん:【仲間との経験を通して気づいた“自分の生き方”】

第2弾、西森千咲(Chisaki Nishimori)さん:【一生大切にしていきたい。プログラムで学んだ「自分自身を大切にし、本当にやりたいことをやる」ということ。】

第3弾、江田翔太(Shota Eda)さん:【諦められてきた社会の課題を根本から解決したい】

第4弾、菊本寛(Kan Kikumoto)さん:【「みんなが誰にでも、優しい社会」を創りたい。】

第5弾、三塩菜摘(Natsumi Mishio)さん:【“伝えたい人”の原動力を形にする】

第6弾、間瀬海太(Umita Mase)さん:【「発想の仕方を変える」―シアトルで学んだイノベーションの可能性】